妊活を始めた男性へ|精索静脈瘤と精液検査で知っておきたいこと
目次
男性不妊の原因で多い精索静脈瘤について、症状や受診の目安、精液検査の見方をわかりやすく解説。妊活を始めた男性が最初に知っておきたい検査の順番も紹介します。
妊活の世界には、よくある流れがあります。精液検査の結果が良くない。でも、くわしく調べないまま、体外受精に進む。うまくいかない。流産も経験する。原因を調べても、はっきりしない。そうして1年がたったころ、ようやく男性の専門外来にたどり着く。そこで初めて「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」という病気が見つかる。泌尿器科の専門医が「お決まりのパターン」としてSNSで紹介し、大きな話題になった流れです。
この話でいちばん重いのは、病気そのものではありません。男性側の最初の検査は、精液検査と、医師が手でさわって調べる触診だけだということです。痛い検査はありません。大きな機械もいりません。それなのに、検査の順番があとに回されただけで、1年という時間が消えてしまうのです。
先に、いちばん大事な数字を言ってしまいます。国の資料によると、不妊の約半分には、男性側も関わっています。そして男性不妊の原因のうち、はっきり特定できるものの中でいちばん多いのが、この精索静脈瘤です。多くの人が、名前を聞いたこともないのに、です。
ひとつ、正直に言っておきます。私たちは海外医薬品の通販の店です。手術はできません。検査もできません。精索静脈瘤に効く薬を売っているわけでもありません。つまり、この記事を読んでもらっても、うちで買うものはほとんどありません。だからこそ、お店の都合ぬきで、検査の順番の話を正直に書けると思っています。
この記事で分かること
- •不妊の約半分に男性側が関わっているという、国の資料の数字
- •男性不妊の原因でいちばん多いのに、知られていない「精索静脈瘤」の正体
- •精液検査の基準値のほんとうの意味(平均点ではなく「下から5%の線」)
- •手術で妊娠しやすくなるのか。学会が書いている「あわてて手術しなくていい人」
- •妊活以外の、もうひとつの受診のきっかけ(陰囊(いんのう)の違和感・痛み)
- •亜鉛やCoQ10などのサプリは効くのか、大きな研究の答え
- •手術のリアル(9割が顕微鏡下・約半分は外来)と、今日からできる生活習慣の話
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報提供です。診断・治療に代わるものではありません。症状や検査結果の見方には個人差があります。気になる方は、泌尿器科・男性不妊外来の医師にご相談ください。
不妊の約半分に、男性側が関わっている
「不妊の検査は、まず女性から」。そんなイメージが、まだ残っています。でも、国の資料はちがう数字を出しています。
男性不妊の中身も、数字が出ています。こども家庭庁の資料に載っている厚生労働省の調査(2015年度)によると、いちばん多いのは精子をつくる働きの問題(造精機能障害)で82.4%。次に、勃起や射精の問題(性機能障害)が13.5%。精子の通り道の問題(精路通過障害)が3.9%です。
つまり、こういうことです。ふたりで一緒に、最初から調べはじめる。それだけで、冒頭の「1年が消える」流れを避けられる可能性が高くなります。
原因でいちばん多いのに、知られていない「精索静脈瘤」
精索静脈瘤は、かんたんに言うと陰囊(いんのう)のまわりの静脈に血液が逆流して、血管がこぶのようにふくらんだ状態です。日本泌尿器科学会の「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」には、男性不妊症の原因のうち「原因が同定できるなかで最も頻度が高いのが精索静脈瘤である」と、はっきり書かれています。
同じガイドラインが引用している厚生労働省の調査では、男性不妊症に占める精索静脈瘤の割合は30.2%。約3人に1人の計算です。しかも、めずらしい病気ではありません。ガイドラインには「健常者でも15〜20%にみられる」とあります。5〜6人に1人。クラスに数人はいる計算になります。
体のつくりの関係で左側に多く、両側にあるケースは10%程度とされています。そして、どれくらい見つけやすいかによって、状態は3つの段階に分けて説明されます。
精索静脈瘤は、見つけやすさで3段階
段階1お腹に力を入れたとき、触ると分かる
段階2力を入れなくても、触ると分かる
段階3見ただけで分かることがある
どの段階かを、自分で決める必要はありません。男性側の最初の検査は、精液検査と触診です。泌尿器科の医師が触診をすることで、精索静脈瘤の可能性を確認できます。
精液検査の「基準値」の、ほんとうの意味
精液検査を受けると、結果表にいくつかの数字が並びます。WHOの検査マニュアル(第6版)が示す基準値は、精液の量1.4mL、精子の濃度1,600万/mL、動いている精子の割合(総運動率)42%、前に進む精子の割合30%、正常な形の精子4%です。
ここで、多くの人が誤解していることがあります。この基準値は、「平均点」ではありません。ガイドラインにはこう書かれています。基準値は「避妊を行わない性交渉で12カ月以内に自然妊娠した男性」の精液データの、下から5パーセントの線に基づいている、と。
言いかえると、こうなります。「基準値ギリギリ」は「平均くらい」という意味ではない。逆に、基準値を下回っていても「妊娠できない」という意味でもない。あの数字は合格ラインではなく、「自然妊娠した人たちの中にも、これくらいの人はいた」という下端の線なのです。
もうひとつ、大事なルールがあります。精液検査の結果は、同じ人でも受けるたびに大きく変わります。だからガイドラインは「少なくとも2回以上の結果をもって判断するべき」としています。また、基準値のもとになったデータは禁欲2〜7日で測ったものなので、検査前の禁欲期間もこれに合わせる必要があります。1回の悪い結果で、絶望しないでください。
自宅で採って持ち込む場合のルールも決まっています。採ってから60分以内に検査室へ。運ぶときの温度は20〜37℃。間に合わないなら、院内で採るほうが確実です。数字がすべての検査だからこそ、測り方のルールがきちんとあるのです。
手術の前に、知っておきたいこと
精索静脈瘤は、手術で治療できることがあります。ただし、静脈瘤が見つかったからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。
手術を考えるのは、触診で分かる静脈瘤があり、精液検査でも気になる結果が出ているときがひとつの目安です。まずは検査結果をそろえて、泌尿器科で相談しましょう。
手術の話が出たら、まず確認すること
① 触診で分かる静脈瘤があるか
② 精液検査で気になる結果があるか
超音波でしか見つからない小さな静脈瘤や、精液検査が正常な場合は、すぐに手術を考える必要はありません。迷ったら、検査結果をもとに専門医と相談するのが安心です。
手術をするかどうかは、ネットの情報だけで決めないことが大切です。触診と精液検査の結果を見てから、次の一歩を考える。この記事で伝えたいのは、その順番です。
病院に行くきっかけは、2つある
この病気の入口は、妊活だけではありません。ガイドラインには、精索静脈瘤では「陰囊違和感や陰囊痛がみられる場合がある」と書かれています。実際、SNSで大きな反響があった当事者の投稿も、「妊活で見つかった」ではなく「痛くて受診したら見つかった」という話でした。
入口A:妊活をはじめる・はじめている
- •1年近く妊活しているが、男性側は未検査
- •精液検査を1回も受けたことがない
→ 最初からふたりでスタート。男性側は精液検査と触診だけです
入口B:陰囊に違和感・痛みがある
- •左側がなんとなく重い、鈍い痛みがある
- •お風呂で触ると、やわらかいふくらみがある
→ 泌尿器科へ。痛みの原因はほかの病気のこともあるので、自己判断しない
どちらでもない
- •妊活の予定はまだない
- •症状もとくにない
→ 今は知識だけでOK。「男性側の検査は軽い」ことを覚えておいてください
検査の前に、今日からできること
受診を待つあいだにも、できることがあります。ガイドラインには、生活習慣と男性不妊の関係を調べた研究がまとめられていて、肥満・喫煙・高血圧の3つが関連する要因として報告されています。
肥満(BMI30以上)には、少し不思議な特徴があります。11万人以上を対象にした解析によると、肥満の男性は不妊症になりやすく(オッズ比1.66)、体外受精の成績も下がると報告されています。ところが、精液量・精子の濃度・運動率といった、ふつうの精液検査の数字には、はっきりした差が出ませんでした。差が出ていたのは、精子のDNAの傷や形といった、もっと細かいところ。つまり、「精液検査が正常だったから生活はこのままでいい」とは言えないのです。
喫煙は、もっとはっきりしています。精子の数の減少、運動率の低下、正常な形の割合の低下と関連し、精子のDNAの傷を増やすと報告されています。受精のしやすさや、受精卵の着床にも影響するとされています。
どれも、明日の検査結果を変える話ではありません。でも、妊活は数か月から数年の話です。検査の予約と、生活の見直しを同じ日に始める。それがいちばん効率のいい順番です。
サプリで精子は良くなるの?
「妊活サプリ」で検索すると、亜鉛やCoQ10(コエンザイムQ10)の商品がたくさん出てきます。検査に行く前に、まずサプリで、と考える人も多いはずです。ここは、サプリも扱う店として、大きな研究の数字を正直にお伝えします。
亜鉛+葉酸。アメリカの国立研究機関が主導した大規模な比較試験(FAZST試験、2,370人、JAMA 2020年)では、亜鉛30mg+葉酸5mgを6か月飲んだグループと、飲まないグループ(プラセボ)で、赤ちゃんが生まれた割合は34%と35%。差はありませんでした。精液検査の数字にも、はっきりした改善はありませんでした。
CoQ10。8つの比較試験・877人分をまとめた解析(2025年)では、精子の運動率と正常な形の割合は改善しました。ただし精子の濃度は変わらず、妊娠率が上がるかどうかは、また別の問題として残っています。研究ごとの結果のばらつきが大きいことも、解析の著者自身が指摘しています。
結論はシンプルです。サプリを何か月も試す前に、まず検査。原因が精索静脈瘤なら、サプリをいくら飲んでも、こぶは消えません。順番を先にするだけで、お金も時間もむだになりません。
よくある質問
左側だけ、違和感や鈍い痛みがあります。精索静脈瘤でしょうか?
精索静脈瘤は体のつくりの関係で左側に多いとされています。ただし、陰囊の痛みにはほかの原因もあります。中には急いで治療が必要な病気もあるので、自己判断せず泌尿器科を受診してください。
精液検査の結果が「基準値ギリギリ」でした。平均より下ということですか?
ちがいます。基準値は平均点ではなく、自然妊娠した男性たちのデータの「下から5%の線」です。ギリギリでも基準の中には入っています。数字の意味は、結果表だけで判断せず医師に確認してください。
1回目の精液検査が、とても悪い結果でした。もうだめでしょうか?
1回で決めないでください。精液検査の結果は同じ人でも大きく変わるため、ガイドラインは「少なくとも2回以上の結果で判断するべき」としています。検査前の禁欲期間(2〜7日)がずれていただけでも、数字は変わります。
何科に行けばいいですか?検査は痛くありませんか?
泌尿器科、できれば男性不妊外来のある施設です。最初に行うのは精液検査と触診で、痛い検査ではありません。必要に応じて超音波検査などが追加されます。
手術になったら、入院が必要ですか?
施設によりますが、国のデータでは顕微鏡を使った手術の約半分が入院なしの外来で行われています。手術の中身や入院の要否は、施設と体の状態で変わるので、受診先で確認してください。
超音波(エコー)検査は、何のためにするのですか?
触診を補って、血液の逆流やこぶの大きさをくわしく見るためです。ただし、超音波でだけ見つかる小さな静脈瘤は、治療しても妊娠率が上がるという証拠が確認されていません。だから判断の基準は、あくまで「触って分かるか」と「精液検査の結果」の2つです。
パートナーに検査をすすめたいのですが、どう切り出せばいいですか?
責める形ではなく、数字を共有するのがおすすめです。「不妊の約半分は男性側も関わっているって国の資料に書いてあった。最初からふたりで調べるのが今の標準らしい」。この記事をそのまま見せてもらってもかまいません。
おわりに。静かに進むものは、数字でつかまえる
精索静脈瘤は、痛みなどの分かりやすい症状がないこともあります。だからこそ、気になるときは「様子を見る」だけで終わらせず、精液検査と触診で確認することが大切です。
妊活を始めたら、女性側だけでなく男性側も早めに確認を。まずは泌尿器科で相談し、必要な検査を受けて、次の一歩をふたりで決めていきましょう。
出典・参考資料
- •日本泌尿器科学会 編「男性不妊症診療ガイドライン 2024年版」 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/52_male_infertility.pdf
- •こども家庭庁「みんなで知ろう、不妊症・不育症のこと」男性不妊 https://funin-fuiku.cfa.go.jp/dictionary/theme06/
- •Schisterman EF, et al. JAMA 2020;323(1):35-48(FAZST試験) https://www.nichd.nih.gov/about/org/dir/dph/officebranch/eb/folic-acid-zinc
- •Akhigbe TM, et al. Front Pharmacol 2025(CoQ10メタ解析) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11739123/
- •谷本芳美ほか「日本人筋肉量の加齢による特徴」日本老年医学会雑誌 2010;47:52-57 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/47/1/47_1_52/_pdf



