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体重は変わらないのに脚だけ細くなる理由|20代から減る下半身の筋肉とセルフチェック

目次

洗面所で体重計に乗り、変わらない数字を見ている男性
健康コラム 体の数字

体重は変わらないのに脚だけ細くなる理由|20代から減る下半身の筋肉とセルフチェック

脚の筋肉は20歳代から減りはじめ、80歳までに約3割。一方でおなかまわりはほとんど減らないので、体重計は何も教えてくれません。気づきにくい理由と、自宅で10秒でできる確認方法を解説します。

公開
2026年8月
読了目安
約12分
おもな出典
日本老年医学会雑誌/AWGS 2025

体重計の数字が、この3年ほとんど動いていない。健康診断も、毎年「とくに問題ありません」。

それなのに、去年まで普通にはけていたズボンの、太もものあたりだけが余る

痩せたわけではありません。体重は変わっていないのですから。でも、確かに何かが変わっている。

はいているズボンの太もも部分をつまみ、生地が余っていることに気づく男性

答えから書きます。脚の筋肉は、20歳代から減りはじめます。 そしておなかまわりの筋肉は、中年期までむしろ増えていきます。合計すると、行って来いです。だから体重計は、何も教えてくれません。

この記事で分かること

  • 日本人4,003人のデータで、減っていたのは脚だけだったという事実
  • おなかまわりの筋肉は減らないので、体重計には表れないという仕組み
  • 脚が細くなると、移動する力と血糖の受け皿が同時に削られるということ
  • 体重が「落ちた」ときにも、同じ見落としが起きるということ
  • 2025年11月に改訂された確認のしかたと、50歳から対象になったという変化
  • 今この場でできる、4つの確認方法
  • 道具のいらない、今日からの3つ

※本記事は2026年8月時点の一般的な情報提供です。診断・治療に代わるものではありません。体の状態には個人差があります。気になる症状がある方は、医師や薬剤師にご相談ください。

数字で見ると、減っていたのは脚だけでした

この章の結論:脚の筋肉は、20歳代から減りはじめます。でも、おなかまわりの筋肉はほとんど減りません。合計である体重は動かないので、体重計には表れません。

先に、いちばん大事な数字を言ってしまいます。

日本人4,003人の筋肉量を、体の部位ごとに測った研究があります。大阪医科大学のグループが2010年に発表したものです。この研究が見せてくれたのは、「筋肉が減る」といっても、減り方は場所によってまったく違うということでした。

20歳のときと80歳のときを比べたものが、こちらです。

部位別に見た筋肉の減少率。脚だけが約3割減り、おなかまわりはほとんど変わらない
谷本芳美ら「日本人筋肉量の加齢による特徴」日本老年医学会雑誌 2010;47:52-57 の表2より作成。回帰式による推定値。

脚だけが、3割ほど減っています。

いっぽうで、おなかまわりはほとんど動いていません。女性にいたっては、80歳のほうが20歳より少し多いくらいです。腕も、女性は3%しか減っていません。

そして、この3つを足し合わせた「全身の合計」を見てください。男性で16.8%、女性で11.0%。脚だけを見たときの3割が、半分以下に薄まってしまいました。

体重計が拾っているのは、この薄まったあとの数字です。

脚で起きている変化は、ほかの場所が動かないことで打ち消されてしまう。だから体重は変わらない。鏡を見ても、上半身は変わっていないので気づきにくい。ズボンをはいたときに「あれ」と思う、そのくらいの形でしか出てきません。

論文にも、そのままの言葉で書かれています。脚は20歳代ごろから著しく減っていくのに対し、おなかまわりは中年期ごろまでむしろ緩やかに増えていく、と。

筋肉がいちばん多いのは、思っているより早い年齢です

この研究には、もう少し静かな数字もあります。

おなかまわりの筋肉量がピークになるのは、男性で45歳、女性で50歳。全身の合計で見ても、男性は40歳ごろまでは微増、女性は50歳ごろまで横ばいです。

つまり、体重や見た目が「まだ変わっていない」と感じている40代・50代のあいだにも、脚のほうはとっくに下り坂に入っている。そういう時間差があります。

この数字の、限界について

この研究は、同じ人を60年間追いかけたものではありません。いろいろな年齢の人をいちどに測って、そこから式を立てて推定した数字です。ですから「あなたも必ずこうなる」という話ではありません。

そしてこの研究に参加した高齢の方は、自分で測定会場まで歩いて来られた方たちです。論文自身がその点を断っています。

それでも、4,003人という人数で、部位ごとにここまではっきり差が出た。その事実は動きません。


以前、男性不妊の記事の最後で、この数字にほんの少しだけ触れました。「おなかまわりはほとんど変わらないのに、脚だけが減っていく」と。今日は、その一文の中身をぜんぶ開けていきます。

男性不妊と精索静脈瘤の記事はこちら

では、なぜ脚からなのでしょうか。

脚が細くなると、何が変わるのでしょうか

この章の結論:脚の筋肉は「移動する力」そのものです。だから体の機能のなかで、いちばん先に影響が出ます。そしてもうひとつ、血糖の受け皿としての役割もあります。

ここまで数字の話をしてきましたが、そもそもの疑問が残っているはずです。

脚が細くなって、何が困るのか。

答えは2つあります。

① 最初に落ちるのが、移動する力だから

前の章で紹介した4,003人の研究は、考察のなかでこう書いています。

高齢期では歩行や階段昇降などの下肢筋力を必要とする移動能力が、他の機能より先行して障害される

順番の話をしています。体にはいろいろな機能がありますが、そのなかでいちばん先に影響が出るのが、移動する力だということです。そしてその低下は、脚の筋肉が減ったことに由来している、と論文は結論づけています。

移動する力が落ちると、暮らしは静かに変わります。

歩く速さが落ちる。歩幅が狭くなる。階段より遠回りのスロープを選ぶようになる。荷物を持って歩く距離が短くなる。駅の乗り換えを避けるようになる。

痛みが出るわけでも、病名がつくわけでもありません。ただ、行ける場所が少しずつ狭くなっていきます。 本人も「歳だから」で説明できてしまうので、気づくのが遅れます。

② 血糖の、いちばん大きな受け皿だから

もうひとつは、まったく別の話です。

骨格筋は、体重の約半分を占める人体最大の器官です。そして食事のあと、血糖の80%以上を取り込んでいるのが、この筋肉です(学術の動向 2006年)。

つまり筋肉は、血糖の受け皿でもあります。

脚は、その筋肉のなかでもいちばん大きな塊です。太ももの前側、お尻、ふくらはぎ。ここが減るということは、食事のあとに糖を受け止める場所が減るということでもあります。

同じ量を食べていても、受け皿が小さくなれば、あふれやすくなる。年齢とともに血糖の数値が上がりやすくなる背景には、こうした変化も関わっていると考えられています。

つまり、こういうことです

脚の筋肉が減るというのは、「見た目が細くなる」話ではありません。

移動できる範囲と、食べたものを受け止める力。この2つが、同時に少しずつ削られていきます。どちらも急には起きないので、気づいたときには何年か経っている。それがこの話のやっかいなところです。

だからこそ、体重計に出ないうちに見つけておきたいのです。

なぜ、脚からなのでしょうか

答えから書きます。年齢とともに先に細くなるのは、とっさに大きな力を出すタイプの筋肉です。そして脚は、そのタイプが集まっている場所でした。

筋肉には、大きく2つのタイプがあります。

ひとつは、じっくり長く働き続けるタイプ。もうひとつは、とっさに大きな力を出すタイプです。専門的には速筋線維(そっきんせんい)と呼ばれます。

年齢の影響を受けやすいのは、後者のほうだと考えられています。長く働き続けるタイプは、わりあい保たれる。先に細くなるのは、いざというときに使う側です。

つまずきかけて足が出る。バスに間に合わせようとして走る。階段を二段飛ばす。そういう場面で働いてくれていた筋肉から、静かに減っていくということになります。

階段を一段飛ばしで上る男性。とっさに大きな力を出す場面

立っているだけで、働き続けている場所

もうひとつ、減りやすさを決める条件があります。

私たちが立っているあいだ、重力に逆らって体を支え続けている筋肉があります。抗重力筋(こうじゅうりょくきん)と呼ばれるものです。この、支える役割を持ち、大きくて、とっさに力を出すタイプを多く含む筋肉ほど、年齢の影響を強く受けるとされています。

3つの条件です。支えている。大きい。とっさに力を出す。

脚は、この3つにきれいに当てはまります。太ももの前側も、お尻も、ふくらはぎも、全部そうです。腕には、この条件がそろっている場所がほとんどありません。

年齢の影響を受けやすい筋肉の3条件と、そのすべてに当てはまる脚

前の章で見た「腕は女性で3%しか減らないのに、脚は3割減る」という差は、こう見るとすこし腑に落ちてきます。

ただし、ここは「たぶん」の話です

ここは断っておきたいところです。

前の章で紹介した研究は、その論文のなかで「脚の筋肉が大きく減る原因は、体を動かす量が減ることが指摘されているが、詳しいことは明らかでない」と、はっきり書いています。

つまり、いま説明した筋肉のタイプの話は、有力な考え方ではあっても、これで決まりというわけではありません。実際には、動く量が減ることや、神経の側の変化など、いくつもの要因が重なっていると考えられています。

「脚から減る」という事実のほうは、はっきりしています。「なぜ」のほうは、まだ全部は分かっていない。そのくらいの温度で受け取っていただければと思います。

体重が動かない、もうひとつの理由

この章の結論:筋肉が減った場所には、脂肪が入ってきます。だから合計の体重は動きません。体格が標準的な方ほど、いちばん見えにくい形になります。

ここまでは「ほかの場所が減らないから、合計が動かない」という話でした。

ですが、理由はもうひとつあります。減った場所が、そのまま空くわけではないということです。

筋肉が減ると、体が使うエネルギーの量も少しずつ減っていきます。使われなかった分は、脂肪としてたくわえられていきます。そして年齢を重ねると、その脂肪は内臓のまわりにつきやすくなることが知られています。

筋肉が減り、脂肪が増える。この2つが同時に進むと、合計の重さはほとんど変わりません。

筋肉が減った場所に脂肪が入り、合計の体重はほとんど変わらないことを示した図

日本老年医学会の総説では、この状態を「サルコペニア肥満」という言葉で説明しています。サルコペニアというのは、筋肉が減って力も落ちてきた状態のことです。ここに、内臓まわりの脂肪が重なった形を指します。

この2つをつないでいるのは、血糖を下げる仕組みが効きにくくなることだと同じ総説は書いています。筋肉は、血糖を受け取る側でもあります。ですから筋肉が減ること自体が、血糖の仕組みに響いていく。そういう循環があると考えられています。

ここで大事なのは、次の一点です。

体重もBMIも標準のままなので、いちばん気づきにくい。

健康診断で身長と体重を測って、BMIを出して、標準の範囲に入っている。それだけで安心してしまう。でもその内訳のほうは、誰も見ていない。この「見えなさ」が、次の章の話にまっすぐつながっていきます。

体重が「落ちた」ときにも、同じことが起きています

逆のほうも、少しだけ書かせてください。

ダイエットで体重が落ちたとき、減っているのは脂肪だけではありません。脂肪以外の中身も、一緒に減っています。 2025年末に出た総説によると、GLP-1の薬を使った減量では、減った体重の約20〜40%が脂肪以外の部分でした。

ただし、ここが大事なところです。同じ総説は、その割合は食事制限や手術による減量とおおむね同じくらいだとしています。つまり特定の薬の問題ではなく、体重が減るときに共通して起きることです。しかも握力は保たれていたという報告もあります。

ですから「薬で筋肉がごっそり落ちる」という話ではありません。そうではなくて──

体重という数字は、減った中身までは教えてくれない。

増えないときも、減ったときも、数字は内訳を隠します。この記事で言いたいことと、まったく同じ形です。

総説は対策も書いています。たんぱく質をしっかり摂ること、少しずつ負荷を上げる運動、そして体組成を定期的に見ること。この3つです。

減量中の体の変化は、抜け毛の記事でも同じ角度から書いています。
GLP-1ダイエットと抜け毛の記事はこちら
フォシーガとSGLT2阻害薬の記事はこちら

出典:De Girolamo G, et al. Muscle health in the modern era of incretin-based therapies. Eur J Clin Invest. 2026;56(1):e70155

2025年11月、確認のしかたが変わりました

この章の結論:筋肉の状態を見る国際的な手引きが改訂されました。「歩く速さ」が判定から外れ、体格による見落としに手が打たれ、そして対象が50歳からに広がりました。

前の章の最後で、「体重もBMIも標準だから気づきにくい」と書きました。

じつは同じことを、専門家の側も課題だと考えていたようです。

2025年11月4日、アジア地域でサルコペニアをどう見るかを定めた手引きが改訂されました。日本の学会も「今後はこちらを使ってください」と案内を出しています。変わったところが、3つあります。

変更1 「歩く速さ」が判定から外れました

これまでは、歩く速さや椅子から立ち上がる速さといった動きの評価が、判定の材料に入っていました。

新しい手引きでは、そこが外れます。判定は筋肉の量と、筋肉の力(握力)の2つでおこなう形に整理されました。

歩く速さを測らなくなったわけではありません。判定の材料ではなく、その後どうなっていくかを見るための指標として位置づけが変わった、ということです。

変更2 体格による見落としに、手が打たれました

ここが、前の章の話とまっすぐつながります。

筋肉の量を評価するとき、これまでは身長をもとに計算していました。ところがこのやり方だと、体格が大きめの方はほとんど引っかからない

新しい手引きは、その理由をはっきり書いています。BMIが24以上の場合、身長をもとにした計算では低い筋肉量と判定されることがほとんどない、と。

そこで、BMIをもとにした基準が新しく設けられました。前の章で書いた「筋肉が減って脂肪が増える形」が、ようやく拾えるようになったということです。

変更3 対象が、50歳からに広がりました

これまでの手引きは、65歳以上を対象にしていました。

新しい手引きでは、そこに「筋肉の状態に気がかりがある50〜64歳」が加わりました。握力の目安も、この年代のぶんが新しくつくられています。

握力の目安。AWGS 2025(日本サルコペニア・フレイル学会の案内より)
年齢男性女性
50〜64歳34kg未満20kg未満
65歳以上28kg未満18kg未満

この数字は、握力計を使って測ったときの目安です。ご自宅で確かめるものではありません。健診や病院で握力を測る機会があったときに、思い出していただければ十分です。

50代の目安のほうが、数字が大きいことに気づかれたと思います。その年代なら、これくらいは出ていてほしい、ということです。

つまり、こういうことです

「まだ高齢者ではないから、自分には関係ない」

この考え方が、2025年11月を境に成り立ちにくくなりました。はじめに見たとおり、脚のほうは20歳代から減りはじめているのですから、当然といえば当然かもしれません。

ひとこと添えておきます。ここで紹介したのは、医療機関で判定するための手引きです。ご自身で当てはめて診断するためのものではありません。気になる数字があれば、次の章とあわせて、受診の目安として使っていただければと思います。

体重計の代わりになる、4つの確認方法

この章の結論:体重計に出ないなら、別の道具で見にいけば大丈夫です。いちばん確かなのは、ふくらはぎを指で囲むだけの方法です。

ここまで、体重計では気づけないという話を続けてきました。では何を見ればいいのか。その答えを4つお渡しします。

どれも道具はいりません。今この場でできます。

① 指輪っかテスト

指輪っかテストのやり方。両手の親指と人差し指を合わせ、ふくらはぎを囲む

両手の親指と人差し指で、輪っかをつくります。その輪で、ふくらはぎのいちばん太いところを囲んでみてください。

結果は3つに分かれます。

結果見かた
囲めない筋肉量は保たれていると考えられます
ちょうど囲める標準的な状態です
すきまができる筋肉量が落ちているサインとされています
指輪っかテストの3つの結果。囲めない・ちょうど囲める・すきまができる

東京大学の高齢社会総合研究機構が、千葉県柏市で行った大規模な調査から生まれた方法です。

そしてこの方法、2025年に改訂された国際的な診断の手引きに、そのまま名前が載りました。専門の機械で測る前の入り口として、正式に位置づけられています。指で囲むだけの方法が、です。

同じ手引きには、メジャーで測る場合の目安も書かれています。ふくらはぎの周囲が男性34cm未満、女性33cm未満。手元にメジャーがあれば、こちらのほうが確かです。

② 片足で、かかとを20回上げられますか

先に、ひとつだけ

すでにふらつきがある方、転んだことがある方は、この確認は飛ばしてください。 両足でのかかと上げに置きかえていただくか、次の③に進んでください。無理に片足で立つ必要はありません。

大丈夫そうな方は、壁や椅子に軽く手を添えて、片足立ちになります。そのまま、かかとを5cmほどしっかり上げ下げします。

目安は20回

途中で手に体重を預けてしまう。かかとが数cmしか上がらない。つりそうになる。そういう場合は、ふくらはぎの力が落ちているか、筋肉が硬くなってうまく使えていないことがあります。

③ 椅子から、片足で立ち上がれますか

椅子に浅く腰かけます。片方の足を軽く後ろに引いて、腕を組みます。そのまま、引いたほうの足だけで立ち上がってみてください

ふらつきそうなら、どこかにつかまりながらで大丈夫です。安全を先にしてください。

立ち上がるとき、体を持ち上げているのは太ももの前側です。歩いているあいだ、一瞬だけ片足になる瞬間を支えているのも、ここです。

④ 脚は、後ろにも振れますか

何かにつかまって、脚を前後にぶらぶらと振ってみます。

見るのは、後ろ側です。前には出るけれど、後ろにはほとんど行かない。膝がカクッと曲がってしまう。体が引っぱられて前に傾く。そういう場合は、太ももの前側が硬くなって、歩幅が縮みはじめているかもしれません。

この4つの重みは、同じではありません

ここで、区別をつけておきます。

①だけが、学会の文書に載っている方法です。 ②③④は、高齢者の運動指導にあたっている専門家が、現場で使っている目安です。研究で検証された基準ではありません。

ですから、②③④ができなかったからといって、それだけで何かが決まるわけではありません。「気にしてみる価値があるところ」を教えてくれる、そのくらいの受け取り方でちょうどいいと思います。

そしてもうひとつ。今できないことは、悪いことではありません。 これは、ある作業療法士の方が体操教室で必ず言っている言葉です。できない場所が分かったなら、そこが今日からの手がかりになります。

では次に、こうしたチェックをする前から、実は体が出していたかもしれないサインの話をします。

数字より先に、生活のほうが教えてくれます

測る前から、日常のなかにサインは出ています。とくに「立ちくらみだと思っていたあれ」は、別のことかもしれません。

前の章で4つの確認方法をご紹介しました。でも実は、それより先に気づけたかもしれない場面があります。

歩き方が、少し変わっていませんか

  • 前より歩くのが遅くなった気がする
  • 歩幅が狭くなって、こまかい歩きになってきた
  • 平らなところで、つま先が引っかかることがある

ふくらはぎには、後ろの足で地面を蹴る役割があります。ここが弱ってくると、まず歩く速さに出ます。

太ももの前側には、足を前に大きく振り出す役割と、着地の衝撃を受けとめる役割があります。ここが弱ってくると、歩幅が縮みます。大きく踏み出すのが、なんとなく怖くなるからです。

「立ちくらみ」だと思っていた、あのふらつき

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい話かもしれません。

椅子から立ち上がった瞬間に、くらっとする。病院で調べてもらっても、とくに原因は見つからない。そういう経験はないでしょうか。

高齢の方の運動指導にあたっている作業療法士の方が、こんな見方を話しています。

椅子から立ち上がった瞬間に、とっさに手を添えてバランスを取る様子

ふくらはぎが弱くなると、体重を前で支えるのが怖くなる。 だから無意識に、かかと側に体重を乗せる。ところが、かかとに体重が乗った状態で立ち上がると、後ろにふらつきやすい。それが「立ちくらみ」のように見えている場合がある、というのです。

もちろん、立ちくらみには血圧など別の原因もあります。まず調べてもらうことが先です。

ただ、調べても何も出てこなかったとき。足元のほうを見てみるという選択肢が、ひとつ増えます。

手のほうにも出ます

ペットボトルのふたが開けにくくなった。買い物袋を持つのがつらい。

握力は、全身の筋肉の状態をうつす鏡のようなところがあります。先ほど見たとおり、新しい手引きでも判定の柱になっているのは、この握力です。

脚の話をしてきましたが、手のサインも一緒に見てあげてください

今日からできる、3つのこと

入口は3つだけです。道具はいりません。そして、全部やろうとしなくて大丈夫です。

ここまで読んでくださった方に、いちばん軽いところからお渡しします。

1 椅子から、立って座る

スクワットができれば理想的です。でも、いきなりは大変です。

椅子から立ち上がって、また座る。 これを繰り返すだけで、太ももとお尻に十分な仕事をさせられます。ゆっくりやるほど効きます。

回数は決めません。テレビを見ている合間に、数回ずつで構いません。

椅子から立ち上がる途中の姿勢。膝が曲がり、上体がやや前傾している

2 かかとを上げる

壁や椅子に手を添えて、かかとをゆっくり上げて、下ろす。これだけです。

座ったままでもできます。足の裏を床につけて、かかとだけを上げ下げします。

コツがあります。鍛える前に、ほぐしてください。 ふくらはぎが硬いままだと、力が出ませんし、つりやすくなります。壁に手をついてアキレス腱を伸ばす、あの体操を先に入れると、かかと上げの効きが変わってきます。

3 朝ごはんに、たんぱく質を一品

筋肉の材料は、たんぱく質です。そして年齢を重ねると、同じ量を食べても筋肉になりにくくなることが知られています。だから、若いころより意識して摂る必要があります。

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、65〜74歳の推奨量を男性60g、女性50gとしています。2025年版では、高齢の方の下限がとくに強調されました。

とはいえ、グラム数を数えるのは大変です。朝ごはんに、卵か納豆か豆腐か焼き魚を一品足す。 そこから始めて十分だと思います。

おまけ 1時間座ったら、一度立つ

座っている時間そのものが、筋肉にとってはあまり良い時間ではありません。

立ち上がるだけで、筋肉のスイッチはもう一度入ります。1時間に一度、水を汲みに行くくらいの用事をつくってみてください。

全部やらなくて大丈夫です

3つとも今日から、とは思わないでください。

さきほどのチェックで気になったところがあれば、そこに関係する1つだけ。なければ、いちばん気が向いたもの1つ。それで十分です。

よくある質問

ダイエットで体重が減ったのと、筋肉が減ったのは、何が違うのですか?

どちらも体重計の数字は下がります。違うのは中身です。ダイエットでも、減るのは脂肪だけではありません。本文のコラムでご紹介したとおり、脂肪以外の部分も一緒に減っていきます。体重という数字は、その内訳までは教えてくれません。だからこそ、体重以外の見かたを持っておくと安心です。

いま減量に取り組んでいます。筋肉も落ちていないか心配です。

減量そのものをためらう必要はないと思います。総説によると、減った体重のうち脂肪以外の部分が占める割合は、食事制限でも手術でも、おおよそ同じくらいだと報告されています。また、握力などの力は保たれていたという報告もあります。そのうえで推奨されているのが、たんぱく質をしっかり摂ることと、少しずつ負荷を上げていく運動、そして体組成を定期的に見ることです。取り組み方については、必ず主治医にご相談ください。

毎日ウォーキングをしています。それだけで大丈夫でしょうか?

ウォーキングは、心臓にも血圧にも気分にもとても良い習慣です。続けてください。そのうえで、少しだけ足せることがあります。記事の前半で書いたとおり、年齢とともに先に細くなるのは「とっさに大きな力を出すタイプ」の筋肉です。歩くだけでは、このタイプに強い刺激が入りにくいのです。記事の最後にご紹介したかかと上げや、椅子からの立ち座りを少し加えると、届く範囲が広がります。

プロテインを飲めば戻りますか?

たんぱく質は筋肉の材料です。ただ、材料だけを増やしても、それを使う仕事がなければ筋肉にはなりにくいと考えられています。運動と組み合わせて考えるのが基本です。食事から摂るのが難しいときの選択肢のひとつ、という位置づけが現実的だと思います。持病がある方や、腎臓の数値を指摘されたことがある方は、量について必ず医師にご相談ください。

もう年齢的に手遅れではないでしょうか?

年齢を理由にあきらめる必要はないと考えられています。高齢の方でも、適切な運動によって筋力が改善したという報告があります。効果の出かたには個人差がありますし、持病や関節の状態によって向き不向きもありますので、始める前にかかりつけの先生に相談していただくのが安心です。

気になったら、何科に行けばいいですか?

まずはかかりつけの先生で構いません。足腰の痛みがある場合は整形外科が近いです。転倒をくり返している、歩く速さが急に落ちた、といったことがあれば、そのまま伝えてください。この記事で紹介した確認方法の結果を、そのままお話しいただいても役に立つと思います。

おわりに。10秒あれば、確かめられます

体重計が悪いわけではありません。あの道具は、聞かれたことに正確に答えているだけです。「全部で何キロですか」と。

ただ、内訳までは聞かれていない。だから、脚だけが3割減っていても、黙っています。

思えば、はじめにお話ししたズボンのゆるみも、体からの返事でした。数字ではない形で、しかもずいぶん前から。

脚の筋肉が減りはじめるのは20歳代。80歳までに、およそ3割。何十年もかけて、少しずつ進んでいく話です。

その何十年ぶんを、ふくらはぎに指を回すだけなら10秒で確かめられます。道具もいりません。読み終えたその場でできます。

そして、もし気になることがあれば、次に病院にかかるときに一言そえてみてください。「ふくらはぎが細くなった気がして」。たったこれだけで、見てもらえるものが変わることがあります。

お薬市場スタッフスタッフ
今日の数字は、学会の論文と、国の資料から拾ってきました。健康の情報はたくさん流れていますが、迷ったときは出典が書いてあるほうを見ていただければと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ご注意(免責)

本記事は、一般的な健康情報をお伝えするものです。診断や治療に代わるものではありません。体の状態や、運動・食事の向き不向きには個人差があります。

次のような場合は、自己判断で様子を見ずに、医療機関にご相談ください。

  • 転倒をくり返している
  • 歩く速さが、短い期間ではっきり落ちた
  • 意図していないのに体重が減っている(別の病気が隠れていることがあるため、必ず受診してください)
  • 立ちくらみやふらつきが続いている
  • 足腰に痛みがある

運動を始める際は、持病のある方や関節に不安のある方は、あらかじめ医師にご相談ください。気になる症状がある場合は、必ず医師や薬剤師にご相談ください。

出典・参考資料

  • 谷本芳美ほか「日本人筋肉量の加齢による特徴」日本老年医学会雑誌 2010;47(1):52-57 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/47/1/47_1_52/_article/-char/ja/
  • 日本サルコペニア・フレイル学会「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」(2025年11月) https://www.jasf.jp/pdf/revision_20251111.pdf
  • Chen LK, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nature Aging. 2025. https://www.nature.com/articles/s43587-025-01004-y
  • 小原克彦「サルコペニア肥満」日本老年医学会雑誌 2014;51(2):99-108 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_2_99.pdf
  • De Girolamo G, et al. Muscle health in the modern era of incretin-based therapies. European Journal of Clinical Investigation. 2026;56(1):e70155 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12825403/
  • 川中健太郎「運動と骨格筋GLUT4」学術の動向 2006;11(10):42-46 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/11/10/11_10_42/_article/-char/ja/
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
  • 東京大学 高齢社会総合研究機構(指輪っかテスト・柏スタディ) https://www.frailty.iog.u-tokyo.ac.jp/

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